楽しい歌


故小松左京先生に敬意を表して。
この歌はもともとボヘミアの民謡みたいですね。

JASRAC 006-4880-9



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がれきの山で澤田と部下の飯村が作業していると、近くで遊ぶ子供たちが歌い始めた。

ぶんぶんぶん はちがとぶ‥‥


「元気な子たちですね」飯村が汗を拭きながら澤田に声をかけた。「でも、哀しい歌をうたってますね」

「可愛くて楽しい歌じゃないか」澤田は首をかしげた。「何が哀しいんだ?」

「澤田さん、歌詞の続き知ってます?」飯村は少し言いづらそうに尋ねる。

「『お池の回りに野ばらが咲いたよ』だったかな」澤田も額の汗をぬぐう。

飯村は子供たちの方を向いたまま、つぶやくように言った。「ね‥今この国で、そんなのどこで見られますか?」

汗を拭く澤田の手が一瞬止まった。そして小さくため息を付いた。

「本当だな」澤田が小さく言った。「そして蜂やバラが居なくなったら、もう意味の分からない歌になるだろうな」


十数年後、既に現役を退いた澤田の元へ、本部長となった飯村から手紙が届いた。

写真が数枚入っていた。‥がれきの山だったあの場所が、見事な自然公園となった報告と一緒に。

写真の最後の1枚は、自生したバラに小さなミツバチが止まっているものだった。

「そうか」澤田は微笑んでつぶやいた。「あいつが楽しい歌に変えてくれたんだな」


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