春風の旅路




2010年の年賀イラスト。

コーカシカやラヴニカと同じ世界に住む、妖精ドロシィと虎のアルゴです。


気強な感じの妖精も好きなのですが、描いたのは初めてかもしれません。


ちょっとしたストーリーを付けました。









無限に広がる森、そこに住む妖精たち‥

その中でドロシィは、旅に惹かれ、森を出てあちこちを飛び回っている、とても変わった妖精でした。


森の生き物たちと遊び、草花と言葉を交わし‥そよ風の中でのんびりと暮らす生活も、

もちろん嫌いではないし、その中にも不思議な発見や新しい感動があることは知っていました。


でも、彼女の好奇心はとっても活発で、ある意味で乱雑で‥

次々と変わったものを見たり、動き回ったりしないと落ち着かない性分なのです。


もう一つ、彼女には他の妖精と違うことがありました。

それは、明確なパートナーがいるということ‥

彼女の小さな身体を乗せ、風を切って歩く若々しい雄の虎、アルゴの存在でした。


ふたりは長い長い旅の間、片時たりとも離れたことはありません。

食事を探す時も連れ添い、土で汚れたら繕ってやり、お互いの温もりを感じながら眠りました。


何千年、何万年旅を続けても、それは変わりませんでした。



生き物の寿命はそれほどありませんから、アルゴもきっと本来は、ドロシィと同じ、生き物とは別の存在なのでしょう。


ある日、しとしとと雨の降る晩・・眠るための穴ぐらを探している途中、

ふとしたはずみから今までと異なる感情を覚えました。

ふたりは雨に濡れるのも構わず、初めて異性として、一晩中愛し合いました。


草陰でまる一日眠り、目を覚ましたら、再び夜になって疲れ果てるまで契りました。


でも‥そんな素敵なことがあってからも、ふたりは今までと変わりませんでした。

言葉を交わし、寄り添って眠り、一緒に風の中を旅することと、

愛しくなって求め合うことは、きっと同じことなんだと理解していました。


気丈で好奇心いっぱいのドロシィと、たくましく知性的なアルゴは今日も争うように旅を先導します。



ドロシィは、自分の出発した森に住むもうひとりの妖精とアルゴを除けば、

生命と違う存在に会ったことはありませんでした。


ふとした噂から、数年間、南へ南へと歩き続けると、光に満ちた、真っ白で巨大な花の森が見えてきました。

ここを通り過ぎてもっと南へ行った、静かで暗くて、しかし恵みに満ちた森に、

とても賢くて、色々な事を知っている妖精が住んでいるというのです。


新しい出会いを予感しながら、ドロシィとアルゴは、巨大な花の茎が形作る不思議な森の中を颯爽と進んでいきました。








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